鯨の上あご(鼻筋)の軟骨「かぶら骨」を、細く刻み、長時間水にさらして脂を抜いたのちに、甘く調味した酒粕に漬け込む松浦漬。滑らかな舌触りの漬け床をともに、かぶら骨のコリコリとした食感を味わう、呼子特有の銘産品です。平凡社の百科事典作成の折には、日本珍味五種の一つに数えられました。
創業者・山下ツルが松浦漬を考案した当初は、長期保存をすることができず、つくっては捨て、つくっては捨ての繰り返しでした。開発に多額の私財をつぎ込み、家が傾きかけたことや、松浦漬づくりが上手く行くようにと氏神の愛宕神社にお百度参りを行ったとか、創業者・山下ツルの松浦漬づくりに対するなみなみならない思いが伝わる逸話も数多く残っています。
長年の試行錯誤の結果、酒粕特有の風味を保ちつつ、長期保存ができる現在の松浦漬の製法を生み出すことができました。情熱と労力をかけて培った製法だけに、ツルはその製法の流出を一切禁じました。メモとして記録に残すことはもちろん、作業場でのやりとりは隠語を使うなど、家伝の秘法として代々口伝えのみで受け継がれています。
いまも、松浦漬の味付け、調合比率を知るのは社長ただ一人。 次の代に受け継ぐその日まで、最終工程は必ず社長自らの手で。 このような決まり事によって、松浦漬の伝統製法、伝統の味は守られているのです。